東京高等裁判所 昭和46年(ネ)1436号 判決 1971年11月16日
控訴人 株式会社東京 スーパーマーケツト
右訴訟代理人弁護士 丸島秀夫
被控訴人 株式会社とりせん
右訴訟代理人弁護士 戸恒庫三
主文
原判決を次のとおり変更する。
控訴人は被控訴人に対し金六〇万三、八一〇円およびこれに対する昭和四五年六月一四日から支払ずみまで年五分の金員を支払うべし。
被控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じこれを三分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。
この判決は第二項に限りかりに執行することができる。
事実
<全部省略>
理由
一、被控訴人が昭和四四年六月二八日控訴人に対し原判決添付別紙物件目録記載の土地および家屋(以下本件土地、家屋という)を売却し、同日控訴人名義に所有権移転登記をするとともに控訴人へのその引渡を完了したこと、控訴人が右引渡の翌月すなわち同年七月以降の公租公課を負担する旨の約旨を履行しなかったことおよび被控訴人が本件土地、家屋に対する同年七月以降の固定資産税および都市計画税を納付したことは当事者間に争がない。しかして問題の約旨は成立に争いない甲第一号証によれば契約書第九条において「本件不動産に関する公租公課、受益金負担金、清算金その他の賦課金は納税通知書、納付用紙等における名義の如何にかかわらず本件不動産の引渡し完了の月までの分は甲(すなわち売主たる被控訴人)、その翌月以後の分は乙(すなわち買主たる控訴人)がこれを負担納付するものとする。」となっているものであることが明らかである。
二、被控訴人は右約旨にもとづき控訴人が負担すべき本件土地家屋に対する昭和四四年七月以降の固定資産税および都市計画税の合計額は金九〇万五、七〇〇円であると主張するのでこれについて判断する。
地方税法(以下法という)第三四二条第一項、第七〇二条第一項によれば、固定資産税は土地、家屋および償却資産に対して、また都市計画税は土地および家屋に対して課せられる。すなわちこれらをその課税客体とするものである。しかして法第三四九条、第七〇二条第二項によれば、土地、家屋に対する固定資産税および都市計画税の課税標準は原則として土地、家屋の賦課期日における価格で土地課税台帳もしくは土地補充課税台帳または家屋課税台帳もしくは家屋補充課税台帳に登録されたものであり、法第三五九条、第七〇二条の五によれば、固定資産税および都市計画税の賦課期日は当該年度の初日の属する年の一月一日と定められているから、結局土地、家屋に対する固定資産税および都市計画税は当該年度の属する年の一月一日現在における価格に応じて課せられるものであることが明らかである。しかして法第三六二条第一項、第七〇二条の七第一項によれば、固定資産税および都市計画税の納期は四月、七月、一二月および翌年の二月中において当該市町村の条例で定められることになっているので、固定資産税および都市計画は当該年度の始まる四月から四回に分けて徴収されるのであるが、これは賦課手続の関係と徴税技術上の便宜とによるものである。すなわち原審証人五十木文治の証言からしても明らかなように、市町村長が固定資産税および都市計画税を賦課するには、先ず一月一日現在で土地、家屋の所有者を確定し、次いで二月末日までに課税標準額を決定し、これを固定資産課税台帳に登録したうえ、これを三月一日から同月二〇日まで関係者の縦覧に供し、その後一〇日間の審査の申出期間の経過によって三月三一日課税標準額が確定するので(法第四一〇条、第四一一条、第四一五条、第四三二条参照)、四月一日固定資産税額および都市計画税額を確定し、これを四月中に納税通知書によって納税義務者に通知するという方法をとっているのであり、この賦課手続の関係で固定資産および都市計画税を年度の始まる四月から賦課徴収することにされ、また徴税技術上の便宜から納税義務者をして当該年度において四回に分けてこれを納付させることとしているのであって、当該年における固定資産税および都市計画税というものと各納期において徴収されるそれとは明らかに区別しなければならない。
次に法第三四三条第一項、第七〇二条第一項はよれば、固定資産税および都市計画税は原則として土地、家屋の所有者に課するものと定められている。しかして右各法条第二項によれば、右にいう所有者とは土地登記簿もしくは土地補充課税台帳または建物登記簿もしくは建物補充課税台帳に所有者として登記または登録されている者をいうと定められているが、前記のとおり固定資産税および都市計画税の賦課期日は当該年度の初日の属する年の一月一日とされているのであるから、結局右にいう所有者は当該年度の初日の属する年の一月一日現在において右の登記簿もしくは補充課税台帳に所有者として登記または登録されているものを指称するものと解すべきである。ところでかように法が賦課期日現在の登記簿もしくは補充課税台帳に所有者として登記または登録されている者を納税義務者と定めたのは、徴税機関をして一々実質的所有権の帰属者を調査させ、所有者の変動する毎にその所有期間に応じて税額を確定賦課させるようなことは徴税事務を極めて複雑困難ならしめることにかんがみ、集団的な徴税の事務処理の簡易明確を図るため、画一的形式的に登記簿または補充課税台帳上の所有名義人を所有者とした趣旨にほかならない。すなわちこれは徴税技術の便宜のため、単に徴税団体との関係において何人が所有者従って納税義務者と目さるべきかを定めたにすぎないのであって、私人相互の内部関係において私法上何人がこれを負担すべきかはこれとは別個の事柄に属する。元来法が固定資産税および都市計画税を設けている主たる根拠は、土地家屋の所有者が通常その土地家屋に応ずる担税能力を具有するものと推認され、またその所有者が都市計画事業によって増進される当該地方団体の一般的利益に当然均霑するものと認められることによるものとされている。すなわち当該年度の初日の属する年の一月一日現在登記簿等上所有者とされている者は実質上も少くともその暦年一年間は右不動産等を所有することによってその利益を享受するものと推認し、その享受利益に対し固定資産税、都市計画税を課するものである。唯その課税徴収の便宜から暦年一年分の利益享受に対応する固定資産税及び都市計画税を租税年度中四期に分けて徴収する点で課税対象たる固定資産所有の年度と徴収年度とがずれを生ずる観を呈するにすぎない。かようなことは税法上なんら異とするに足りないことは、例えば所得税法においては当該暦年の一月一日から一二月三一日までの所得に対する所得税を租税年度の終りたる翌暦年三月一五日を最終納期として徴収することを考えれば、おのずから明らかである。しからずして、固定資産税、都市計画税の租税年度と課税対象の享有年度とを一致せしめなければならないとすれば、賦課期日を当該年度の初日の属する年の一月一日としてそこに三カ月の空白をおきその間に各種の確定手続を定める実質的意義を見出すことはほとんど困難となる。従って右のように土地、家屋を所有する事実を基本として課されるこの種の租税は徴税事務の技術的便宜の点を別にしてはこれをもって実質上の所有権を有しない単なる登記簿上または補充課税台帳上の所有名義人に負担させるべき合理的根拠は見出し難いから、一月二日以後においてその所有者に変動を生じ、あるいは登記簿上または補充課税台帳上の所有名義人と実質上の所有者とが異るにいたった等の場合には、固定資産税および都市計画税は私人相互の関係においてはその実質上の負担についていかようなとりきめをしようとも、もとより当事者の自由であって、通常は衡平の見地から実質上の所有者が、かつその所有期間に応じて日割または月割をもってこれを負担するよう特別の合意がなされるのであり、またそれが取引の通念というべきである。
これを本件についてみるに、被控訴人は昭和四四年六月二八日控訴人に対し本件土地、家屋を売渡し同日所有権移転登記をしかつ引渡をしたというのであるから、右の土地、家屋に対する昭和四四年度の固定資産税および都市計画税の納税義務者は同年一月一日現在においてその登記名義人であった被控訴人であり、被控訴人がこれを納付すべき義務を負っていたものである。ところが右売買の際控訴人被控訴人間において昭和四四年七月以降の固定資産税および都市計画税は控控人において負担する旨約定したというのであるから、その趣旨は本件土地、家屋に対する昭和四四年度の固定資産税および都市計画税はこれを月割にしてそのうち昭和四四年六月までの分すなわち同年一月一日から六月三〇日までの六カ月分、年度中の全額の一二分の六は被控訴人が残りの一二分の六は控訴人がそれぞれ負担する旨約定したものと解すべきであり、かく解することが前述の法の趣旨、衡平の観念および取引の通念に合致するゆえんである。この点について原審証人加藤光躬は原審において右約旨は昭和四四年六月二八日以後の月に納期の到来する分を控訴人が負担する趣旨であった旨被控訴人の主張にそう供述をしているが、右約旨を定めた前記甲第一号証(不動産売買契約書)第九条の文言からしてもそのように解することはとうていできないのみならず、原審証人石崎直の証言に照らしても採用しえない。かりにもし右約旨が右証人加藤の供述のごとき趣旨だとすると、被控訴人は右土地、家屋に対する昭和四四年度の固定資産税および都市計画税のうち四月に納付した分だけすなわち一二分の三だけを負担し、残りの一二分の九を控訴人が負担する結果になる。被控訴人の主張するところは昭和四四年四月納付の分は同年四月一日から六月三〇日までの固定資産享有に対応する分であるとの実質的理由を前提とするものの如く解されるが、右解釈は採用しえないこと前段の説示から明らかであり、かつ前記の衡平の観念および取引の通念にも反するものといわなければならない。また法が固定資産税および都市計画税の納期を前記のとおり四月、七月、一二月、翌年二月中において当該市町村の条例で定める日としたのは、前記のとおり賦課手続の関係と徴税技術上の便宜とに出でたものであるから、これを基準にして負担分を定めるということは合理的根拠がないものというべきである。かく解したからといってそれは昭和四四年二月納期分(昭和四三年租税年度第四期分)を昭和四四租税年度第一期分と解することとなると非難するは当らず、いうなれば右二月納期分は昭和四三年暦年の第四四半期の固定資産享有に対応する分というに過ぎない。
しかりとすれば本件土地建物に対する昭和四四年度の固定資産税および都市計画税の合計額が金一二〇万七、六二〇円であったことは弁論の全趣旨から明らかであるから、控訴人の負担額はその一二分の六の金六〇万三、八一〇円であり、控訴人はこれを被控訴人に支払う義務があるが、それ以上の支払義務はないというべく、従って被控訴人の本訴請求は右金六〇万三、八一〇円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四五年六月一四日から支払ずみまで年五分の遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し、その余は失当として棄却すべきである。
三、よって原判決を右趣旨に従い変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条、第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 浅沼武 裁判官 岡本元夫 田畑常彦)